『エゼキエル書』
この第28章は非常によく取り上げられる章でもありまして、⁂でマークした部分全体は読んでも分かる通り、堕天使ルシフェルに対する神の嘆きの言葉が含まれています。神がツロをルシフェルにかぶせてどんな気持ちで見ておられたかが伺えます。
第28章
ツロの君主に対する預言
ヤハウェの言葉が私に臨んで言った。
「人の子よ、ツロの君主に言え、主ヤハウェがこう言ったと。
『お前の心は高ぶり、我こそは神、
海の真ん中、神々の住まいに住むと、言ったがゆえに。
⁂お前は人であって、神ではなく、
自分の心を神々の心のようにしているに過ぎなのに。
見よ、お前はダニエルよりも賢く、どんな秘密もお前を※①昏(くら)くはしない。
お前の知恵と分別で権勢をなし、自分の宝庫に金銀を蓄えた。
お前はその豊かな知恵をもって、通商でお前の権勢を増し加え、
権勢ゆえに心が高ぶった。
お前は自分の心を神々のようにしたがゆえに、それゆえ、
見よ、わたしは諸国民の中の最も凶暴な異国人をお前に向かわせる。
彼等はお前の※②知恵の美しさに向かって剣をふるい、お前の栄華を冒涜する。
彼等はお前を滅びの穴に下らせ、お前は海の真ん中で刺し貫かれて死ぬであろう。
お前を殺害する者の前でなお、我こそは神、とお前は言うか。
お前は人であって、神ではない。
お前は刺し貫く者達の手中に落ちた。
お前は異国人の手にかかって、※③無割礼の者として死ぬ。
実に、わたしが語ったのである。』」
とは、主ヤハウェの御告げ。
❖補足文
(※①昏くはしない…原意は「覆わない」。ウルガータ「お前は隠されていない。」70人訳は全体を「お前は決してダニエルより賢くはない。賢者達はその知識をもってお前を教えなかった。」
※②知恵の美しさ…知恵をもって築き上げた美しい都市と宮殿。
※③無割礼の者として死ぬ。…70人訳「多くの無割礼の者たちの中でお前は異国人の手にかかって死ぬ。」)
ツロの挽歌 2.
ヤハウェの言葉が私に臨んで言った。
「人の子よ、ツロの王について挽歌を掲げよ。
あなたは彼に言わなければならない、主ヤハウェがこう言ったと。
⁂『※④お前は特愛の印象であって、知恵に満ち、美しさの極みであった。
※⑤お前は神々の園エデンにいて、あらゆる宝石がお前の包衣であった。
ルビー、トパーズ、オニックス、タルシシュ、
紅玉石、碧玉、サファイア、ノフェク、エメラルド。
お前の手太鼓と笛のつくりは金、
※⑥お前の創造された日に備えられた。
わたしは守る者を、※⑦輝くケルブをお前に与え、
お前は神々の聖なる山にいて、火の石の只中を行き来した。
お前が創造された日以来、お前の歩みに非のうちどころはなかったが、
ついに、お前の中に不正が見いだされた。
交易が増すと、お前はお前の中を暴虐で満たし、罪を犯した。
わたしはお前を神々の山から追放し、
守る者ケルブによって、火の石の只中でお前を滅ぼした。
お前の心は己の美しさに高ぶり、栄華によって知恵を破滅させた。
わたしはお前を地上に投げ落とし、王達の前でお前を見世物とした。
お前は咎を増し、不正な交易によってお前の聖所を冒涜した。
わたしはお前の只中から火を出し、それがお前をなめ尽くした。
お前を見る者すべての眼前で、わたしはお前を地上の灰とした。
諸民族の中でお前を知る者はすべて、お前のことでおののいた。
お前は恐怖となって、永遠に消え失せた。』」⁂
❖補足文
(※④お前は特愛の印象~極みであった。…原語トクニートの正確な意味は不明。異本にダブニート「神の似姿の刻まれた。」70人訳も。
※⑤お前は神々の国エデンにいて…背後に創世記2章~3章のエデンの園と通ずる「原初の楽園」伝承が認められる。エヒロームは「神々」と訳したが、「神」と単数でも訳しうる。
※⑥お前が創造された日備えられた。…原文毀損のためか、正確な文章は不明。70人訳「お前が創造された日、お前はお前の中にあるお前の宝庫と貯蔵庫を金で満たした。」をはじめ、古代訳も様々。「穿たれたもの」を「笛」と解し、マソラ本文にある「お前の中で」は2度書きとして削除する。
※⑦輝くケルブをお前に与え~行き来した。…「守る者」は翼を広げて「ヤハウェの箱」を保護するケルビム(ケルブの複数)の属性。「輝く」を訳した原語ミムシャハの正確な意味は不明。古代訳では、「広げた」「油注がれた」など。試訳、「輝く」はアッカド語ミシュフによる。また「ケルブを」の「を」は、原語「アト(お前)女性形」をエトと読み替えたもの。
⁑「火の石」が具体的に何を指すかは不明。
⁑この「火の石」についてはエノク書を参考にして下さい。
この「ツロの君主に対する預言」と「ツロの挽歌 2.」については、冒頭にも書いたように、神がツロを表現するときに、堕天使ルシフェルに置き換えてエゼキエルに伝えている内容になっております。
もしかしたら霊的な様子として、本当は「神」ではない、堕天使ルシフェルがこの世の神として君臨しているで、彼がツロの王を指導しており、そして美しい都市と宮殿を建てさせ、本物の神であるヤハウェに対して、あらゆる穢れた行為を人間に行わせているということを示しているのではないかと思われます。
そして、そうしてかつてはヤハウェにとって、特愛の、つまり最も愛する熾天使の一人であったルシフェルが自分を裏切り、罪を犯したことについて怒り、それでもなお彼を憐れんでいるヤハウェの心情があらわれていると思います。
聖書には時々こうした場面出てきますね。)
シドンに対する預言
ヤハウェの言葉が私に臨んで言った。
「人の子よ、顔をシドンに向け、これに向かって預言せよ。
あなたは言わなけらばならない、主ヤハウェがこう言ったと。
見よ、わたしは、シドンよ、お前に立ち向かう。
わたしはお前の只中で栄光をあらわす。
わたしが彼女の中で審きを行い、自らを聖なるものとして現す時、
彼等は知るであろう、わたしがヤハウェであると。
わたしは彼女に疫病を、その通りには血を送る。
周囲から彼女に向かう剣によって、刺し貫かれた者が彼女の中で斃(たお)れる。
こうして、彼等は知るであろう、わたしがヤハウェであると。
もはやイスラエルの家は、刺さって痛い茨と棘を、
周囲で彼等を侮るどんな民からも受け取ることはない。
こうして、彼等は知るであろう、わたしが主ヤハウェであると。」
イスラエルの家の回復
主ヤハウェはこう言った。
「わたしがイスラエルの家を彼等が散らされた国々から集める時、
わたしは、諸国民の眼前で彼等を通して自らを聖なるものとして現す。
彼等はわたしがわが僕ヤコブに与えた自分達の土地に住むであろう。
彼等は安らかにそこに住み、家を建て、葡萄園を植え、
安心してそこに住むであろう。
こうして、すべて周囲で彼等を侮る人々にわたしが審きを行う時、
彼等は知るであろう、わたしが彼等の神ヤハウェであると。」