【魔術】
『ピカトリクス』第Ⅲ書
第5章
動物たちの中にある力能の解明およびこの知識に欠かせない著しい知見。
またいかにして諸惑星の霊を形象と薫香によって引き出すかについて
1,
3つの下位なものつまり動物、植物、鉱物のうちにある諸惑星の特性につづき、ここではこれら3つについて少々述べることにしよう。
動物の中にも高貴なものがあり、その中で最も高位なるものとして、高貴な省察力をもつ人を識別することができる。動物には、海の貝やアラフ・オミディエ(軟体動物・牡蠣だけ)等々、単に感覚をもつだけのもの、また他に2,3,4,5,10の感覚をもつものがある。…(略)
人は最も高貴な動物であるが、そのからだ(コルプス)の中に大量の諸元素を相互に敵宣調整することで、諸他の動物同様に体液の平衡(気質の平衡・バランス)をなしている。
一々の元素はそれぞれ固有の動物をもっており、その動物から離れることはない。たとえば鳥は気から離れることはなく、魚が水から離れることはない。また悪鬼の霊は永劫にわたり火から離れることはない。それゆえこれは冥府のものと呼ばれるのだが、火の感受とは特殊な覚知の感得であり、特にこれに準えられる動物をサラマンドラ(火中の被造物)と名づける。これは火のうち創られた鼠の形相である。
これは重い動物で、その重さによって土から離れることはない。ここで暗黙の問いに答えておこう。つまり、悪鬼達は、どのようにして火の中にあるのか、について。
人を称して小世界と呼ぶが、これは大世界との比較から謂(い)われることであり、大のうちに含まれるところのものは実質的に小のうちに含まれてある、というものに等しい。…(略)
人の内に激しい衝動が起こると放縦さが燃え上がり、憤怒と共謀の頂点に達するが、まさにここに悪鬼の仕業がすべて生じる。これとの類比から、悪鬼達は火の中にある、と言うことができるだろう。つまり、人のうちで火が付くと憤怒が起こる、そしてここから悪鬼的な帰結が生じる、と。
あるいはその逆に、人に死がそれに相応しい均衡と理拠的な力能によって統御されているなら、天使的になる。要するに、この小世界の中は、大世界の中と同じものからなっている、と言える。
2.
話を元に戻そう。諸惑星について先人達により、3種に分けられており、上述したようにカプテオ、ネプテオ、エジプト、ギリシャ、トルコ、インドの人々の知識によれば、これら諸惑星の作用はこれらの類の諸部分の相互混合、および実修者達の薫香、着衣、食物、香りから生じる。これにより大いなる驚異がなされるということは、彼等の諸著の至るところに読みとられる。
彼等は気中で諸惑星の力能をこの世から引き出される火の諸力能に混ぜ合わせ、その効果を得る、つまり請願を成し遂げる。
気は物体である、最小限の命しかもたぬ諸他の物体以上に、気それ自体と一般の気の混合により惑星からの作用の影響つまり効果を受け取る準備のできた物体を受容する中間物である。
また、これは薫香において、人のコルプスの諸部分に敵宣にその効果をあらわす。
この薫香には樹木その他の類のものを用いる。それぞれの薫香により人の霊は動かされ、様々な嗜好へと搔き立てられる。これは驚くべき魔術の作用であり、その効果は明らかである。
3,
わたしは『知識の区分とその秘鑰の解明』と表題されたる賢者の書を観たことがある。その書の記述を引いてみよう。
『吾はファラセンの地からやって来た者と論争したことがある。インドの地で崇められたこの知識に精通した信頼に足るこの人物は、この知識に関する疑義を様々に自問自答しつつ、吾に語った。
彼は、それは自明である、と言った。
かの地に誰からも大変美しいと称賛される娘がいた。彼が言うには、その娘を吾の客として迎える手筈を調えた。吾は彼女に約束を果たしてくれるようにと頼んだ。それには2つの理由があった。
1つは心からの愛情。もう1つは吾の傍らで先述した業を為すにあたり、この娘を利用するため。すぐさま天体観測儀を支え持つと、太陽の高度を量り、東を定め、12宿をも定めた。白羊宮を東に、ここに火星を主として据え、第7宿に天秤座を、ここに金星を主として据えた、と。
吾はここに言われた言葉の意味を問うた。
すると、「東と第7宿はここで問われる諸願の定式である。」との答え。
またその形象(星座)の中に据えられた火星と金星についても、それらが3角相にある時、これは愛情と友情の相をなし、願いが叶えられる、という。この相は40日(周期)で起こる。この40日とは請願がなされた日からそれが叶えられるまでの日数である。
アヤマンティス石(金剛石・あるいは鋼鉄、天然磁石)の小片を十分に粉砕し、これと等量の芳香性のゴムを混ぜ、この混合物で自分の似像をつくる。そして乾燥チェルサ(エジプトイチジク、ネギ、ニラ、腸疾患を治す薬)を十分粉にして蜜蝋と混ぜる。そしてこの混合物で娘の像をつくり、彼女の着物と同じ布で包む。
ここで新しい壺を1つ用意し、ここに7本の棒(つまりギンバイカ、柳、石榴(ザクロ)、林檎、マルメロ、チェルサ、月桂樹の枝)を挿し、壺の中で、※4本を下に、3本を上に交差させて配する。そしてこの中に自分の名によってつくった像を入れ、続いて娘の像をこの壺に入れる。
(※解説より、「器の中で十文字に交差させる」は、キリスト教徒はすぐにこれを十字架と結びつけるが、おそらくプラトンのティマイオスの創造主が世界魂を創るX配置を想起する方が当たっているだろう。4と3を和解させることは古代中世哲学における難題の一つでもある。)
これを為すにあたり、金星が火星と逆方向にあたり、火星がこの幸運惑星によって強化されるのを待つ。そして壺の蓋をし、毎日先述した時間にこれを開き、その中に力能が注ぐようにする。
そして40日が過ぎると、東の主は第7宿の主を3分相で眺めるで、ここで壺を開いて像の一方が他方を眺めるように、つまり対面させて置く。
壺を閉じた後、彼は吾にこれを僅かに火が燃える◯炉の下に埋めるように命じた。これを少しばかりの小石とともに埋めるにあたり、彼はインドの詞を唱えた。この詞については彼は吾に説明してくれたが、これについては後述することにする。
上述したことが完了すると、壺を開き、そこから像を取り出した。すると、たちまち先述した娘が家の戸口から入って来るのが見えた。そしてここに10日間にわたり滞在することとなった。
「さて、あなたに約束が果たされたのであってみれば、先につくった娘を解放し(溶かし)、本来の自由に戻してやる方がよいでしょう。」と。
そこでこれを諾い(うべない)、それを解放することとし、先述した2つの埋められた像を取り出すこととした。
西洋ニンジンボクを粉にして蜜蝋と混ぜ、これで蠟燭を作って、◯炉の中で火を灯し、これが燃え尽きたところで、2つの像を土中から取り出し、お互いを離して、一方を前に、他方を後ろに投じた。
その時彼は何か詞を唱えたが、これについては後に吾に解釈してくれた。これを彼が全て為してみせたのは、吾にその知識を命じしてみせるために他ならなかった。
覚えた通りにこれを為すとたちまち、娘が眠りを邪魔され目覚めたかのように息を吐くのが見えた。彼女はこう言った。「お願いを聞いて下さるのですね。」と。
そしてたちまち逃げるように家から出ていった。』
これは吾が人生の長きにわたりこの知識に関して見聞した数多くの驚異のうちの一つである。…(略)
4,
(省略)
5,
こうした事どもについて語る前に、1つ心に銘記した厳修すべき格言を据えておこう。古達の見解によれば、諸惑星の霊の享受は以下の事柄に準ずる。
まず、惑星の自然本性を知らねばならない。これによりその力能を享けて、望みの霊の作用を得、この力を望みのままに形象あるいは図像のうちに組み込み、先に論じたように、色、香、薫香によって事物の自然本性をその惑星に適合させる。
続いて、図像のコルプス表面の色がその惑星を代示する色と同じになるように、また香りもこれと関連づけ、図像および実修者の衣装の色もその惑星に適合したものとし、薫香の香りも惑星に準じて調えられるように十分配慮する。
また実修者の内側もその惑星の自然本性にしなくてはならない。つまりその惑星を代示する食物を食べ、実修者のコルプスがこれからまさにそれに相応しい体液複合を保つことができるように、適切なものを摂取する。…(略)
そこでこの惑星に準じられる鉱物を用意し、これで十字を1つ鋳る。
そしてこれ(惑星)がそれに適切な星座の中にある時、この十字を2本の脚に載せる。そしてこれを汝の請願の形象あるいは図像の上に配すると、惑星の霊がここに合する。
例えば、争いや反目を覆して敵を恐れさせるための図像をつくるには、この十字に獅子か蛇の図像を組み合わせる。逃亡脱出のための実修には、十字の鳥の形象を組み合わせる。
富、権力、名誉、地位を増す業を為すには、十字に説教壇に座す男の形相を組み合わせる。
あなたの請願の全てにおいて先述した相の事例に準じて、あなたの請願に相応しい形象を十字と組み合わせる。
また望みのまま誰かを服従させ、あなたの指示に背かないようにするには、その者の図像を、その者に準えられる惑星、つまりその誕生日に東に昇ることを礎としてこの者に対する最大の潜在力を発揮する惑星の、自然本性をもつ石でつくる。…(略)
これについては、上述した力能の全ては形象の中に最大に凝集(ぎょうしゅう)する、と結論づける他ない。我々は一々の樹木や草の形象や形相のうちにばかりでなく、動物やら鉱物の諸惑星の霊の形象そのものを知ることができない。
そこで古のこの業の賢者達は、万有宇宙の普遍的形象として、十字を選んだのだった。
全ての物体はその立体としてあらわれ、また平面の形象は長さと幅とをもっている。
ところで、長さと幅とはまさに十字を為すところのものである。それゆえ、この形象は万有宇宙を導出するものとも呼び得るものであり、こうしたものとして諸惑星の霊の力能に働き、またそれらを受け取るものであり、これは他の形象のなし得るところではない。
これこそがこの業の秘鑰である。…(略)
6,
(省略)
第6章
惑星の霊を自然の事物から採り出す大いなる業。
そして図像とは何か、またこの力能を獲得するための手法について
1,
自らの自然本性の力能と配置に委ねることなしには、誰もこの知識を完全にすることはできない。これはアリストテレスが『アズティへクの書』で語るところ。
この書の中ではまたこう言われている。
ー完全な自然本性はその作用において全てが容易に成し遂げられるよう、愛知者達を強壮にし知性と叡智を確かなものとする。またこの叡智の諸知識は、愛知者でなければこれを明かそうとせず、それぞれの段階においてこの知識の総体をありうべきもののうちに隠している。ー
この知識と精妙な愛知すべては、霊の自然本性の作用を介して、その弟子達にも明かされる、と。この霊の完全な自然本性は、メエギウス、べドザフエク、ウァクデス、ヌフェネグェディスという4つの名で呼ばれている。
これら4つの名辞が上述した完全な霊の自然本性の諸部分である。
この賢者、アリストテレスはそうした完全な霊の自然本性をこれら4つの名辞で呼んだのだが、これらの名辞は完全な自然本性の潜在力を意味している。
これについてヘルメスは言う。
『これをもって吾は知解し、この世の諸作用とその諸性質の秘鑰を引き出したいと思い、吾は大変深く暗い井戸(地下室)の上に立った。そこからは激しい風が吹き出し、その中の暗闇を眺めることもできないほど。そこで燭台に火を灯して掲げたが、たちまち風に消されてしまった。
そうこうするうち、夢に美しい堂々たる男があらわれ吾にこう語った。
「火を灯した蝋燭を硝子の角灯の中入れれば激しい風にも消えなくなるだろう。これを井戸に掲げてその中央を穿(うが)ち、そこから図像を取り出したまえ。これを取り出したなら、その井戸の風は◯み、そこに光源を据えることが出来るだろう。そこで井戸の四隅を穿ち、そこからこの世の秘鑰を引き出したまえ。つまり完全な自然本性とその諸性質それに万物の生成について探り出したまえ。」と。
吾はこの人にあなたは誰なのかと尋ねた。この人は応えて言った。
「わたしは完全なる自然本性。わたしと語りたい時にはわたしの本当の名前を召還したまえ、そうすれば汝に応えよう。」と。
吾はこの人に、一体どのような名で呼んだら良いのか、と尋ねた。この人は答えて言った。
「先に告げた名指しした4つの名辞、これらを持ってわたしを召喚したまえ、そうすれば汝に応えよう。」と。
改めて吾はこの人に、いつ呼べば良いのか、また呼ぶにあたってどうすればよいのかと、と問うた。その人は言った。
「月が白羊宮の初度にある時に。昼夜構わず望みの時に、清潔で立派な館に入り、その東角の地面から高く食卓を据える。そして4つの壺をそれぞれ1リップラの容量のものを準備し、その1つに牛乳バターを、もう1つに胡蝶油を、3つ目に扁桃油を、4つ目に胡麻油を、満たす。
続いてまた別に、先のものと同じ容量の4つの壺を準備して葡萄酒を満たす。そして胡麻油にバターと蜂蜜と砂糖を混ぜる。そしてこれら8つの壺、混ぜて作ったもの、硝子の器1つを準備して、先の食卓の中央に配し、その上に混ぜて作ったものを置く。
まず葡萄酒を満たした4つの壺をこの食卓の四隅に据える。その配置は、1つ目の壺を東に、2つ目を西に、3つ目を南に、4つ目を北に。
続いて残りの4つの壺、まず扁桃油を満たしたものを東の葡萄酒の壺の横に、胡桃油を満たしたものを西に、バターを満たしたものを南に、混ぜ合わせた油を満たしたものを北に置く。そして蜜蝋の蝋燭に火を灯し、これを食卓の中央に置く。
続いて2つの釣り香炉に炭火で満たし、その一方に抹香と乳香を、他方にアロエ樹を入れる。これが完了したら、汝は東を向いて立ち、上述した4つの名を7度唱える。これを7度繰り返した後、次のように唱える。
強力にして権能ある高き霊よ、汝に祈願する。
汝の叡智の諸知識と知性の諸知解があらわれますように。
汝の諸能力が愛知の請願を満たし給いますように。
私に応じ、私と共にあり、私を汝潜在力と力能へと導き、私を汝の知識によって強めたまえ。未だ知解し得ずにいるものを知解させ、知らぬ所を知らしめ、見えぬ所を見せたまえ。そして私の盲目性、卑劣、忘却、疾患を払い、古の賢者達(つまり内心を知識、叡智、知性、理解で満たしたまえ。)の段階にまで私を昇らせたまえ。
これらの言葉を私の内心に繋ぎとめたまえ。私の内心が古の賢者達の内心が実現したところに繋がれますように。」と。
こう語り、この人は言葉を継いだ。』
ここまで述べてきた通りに、業は『アスティメクェム』と呼ばれる書に語られているもの。古の賢者達は自らの完全な自然本性を調えるため、この業を彼等の霊に向けて年に一度は実修し、これが済むと友人達と共にまさにこの食卓で宴を催したものだった。
2,~4,
(省略)
5,
またソクラテスは、
「完全な自然本性とは賢者の太陽であり、その光輝の礎である。」
と言っている。
賢者ヘルメスへの質問者達が知識と愛知は何によって繋がれるのか、と問うと、
「完全な自然本性によって。」と彼は答えた。
また、知識と愛知の礎は何か、との問いの対する答えも、
「完全な自然本性。」
厳密を期して彼等は改めて問うた。知識と愛知を啓くものは何か、と。答えは、
「完全な自然本性。」
そこで彼に問うた。完全な自然本性とは何か、と。答えは
「完全な自然本性とは愛知のあるいは叡智の霊にそれを司る惑星が結びついたもの。
これが知識の帳を開き、これにより他の者には全く知解出来ないことが知解され、またここから夢の中でも目覚めている時にも自然本性の作用が発し、導かれることとなる。」…(略)
ここに語った言葉を十分理解し、記憶にとどめるよう勧める。
この知識を自家薬籠中ものとするためには、この知識への自然本性的な性向ばかりかその人の誕生時日を司る惑星の配置からする力能が不可欠である。
第7章
諸惑星の力能を引き寄せること(誘引)およびそれらといかに語り合うか、
いかにその諸効果は惑星ごとに、形象、供物、祈祷、薫香、諸願題目ごとに区分されるかについて。またそれぞれの惑星に必要とされる天界の状況について
1,
アタバリという賢者は、諸惑星の力能を享ける賢者達の業の実修について、魔術の業に関する古の諸著を解読してこう言っている。
「いずれかの惑星と語り合いたいあるいは、何事かに必要なことを願いたい時には、まず何よりも神の前であなたの意思と信心を浄め、諸他のものを信じないよう十分注意する。そしてあなたのコルプスとあなたの布の汚れを全て清める。
続いてあなたの請願にその惑星の自然本性が相応しいかどうかを検討する。
あなたの請願を委託するためにその惑星に語り掛けるにあたり、この惑星の色に染めた布をまとい、これの薫香を焚き、これの祈祷を唱えるこれをこの惑星が上述したような威厳と配置にある時に全て為す。これを守るなら、望みは叶えられるだろう。」
2,
ここで惑星に合致した請願を簡潔に唱える。土星への請願においては、老人達、寛容な人々、町の貴顕や王達、地に働く者達、召使達、農民達、町の功労者や資産家、偉人達、大工達、盗人達、父、父祖、先祖に向けられる願いを唱える。
また憂鬱、あるいは深刻な病患による思惟の苦痛には、上述した全てあるいは先述した一々の請願を土星に向け、その自然本性をあらわすものを求め、これに後述する祈祷詞を唱える。この請願にあたっては木星が援けとなる。こうした請願の全ての礎は、その惑星が司るとされるものより他のことを惑星に請願しないことである。
3,4,
(省略)
5,
太陽にはこれに見合った請願をする。つまり王の息子の兵士達や王に対する願い、法や真実を司り、虚言や暴力を憎み声望を望む高官達への、賞賛されることを好む管史、聖職者、医師、愛知者、謙虚で心遣いがあり寛大な人々、兄や父等々への願いを。
6,
(省略)
7,
水星への請願としては、公証人、書記、算術家、幾何測量師、占星術師、文法家、説教者、愛知者、修辞家、詩人、王の息子達また彼等の秘書、司令官、証人、行政官、弁護士、使用人、男女の子供達、弟達、画家、絵師等々に関わる祈りを為す。
8,
(省略)
9,
続いて一々の惑星の自然本性とこれに関連付けられる諸物事およびその一々の意味について記しておこう。まず、土星から始めることとする。
土星は、冷と乾であり、災厄と損害であり、悪臭腐臭の元である。
尊大なる叛逆者であり、何事も約しても裏切りをはたらく。その意味するところは、農事としては川や陸地での仕事、長旅の様々な災難、また色々な敵意反感、悪しき所業、誘惑、本意からでない行為、労苦の全て。
つまり、希望、悪化、老年、壮健、危惧、大いなる知解、配慮、憤激、裏切り、痛苦、◯悩、死、遺産、孤児、旧跡、尊敬評価、熱烈な雄弁、秘匿された知識や秘密の意味、深い知識。以上はこれの運動が順行にある時の意味である。
逆行している時は、災厄、衰弱あるいは病患、収監また生活に必要なものの欠如を意味している。…(略)
10,~12,
(省略)
13,
金星は冷と湿で、幸運。その意味するところは、純白、高貴、光輝、言葉遊び、歌の嗜み、歓び、輝き、微笑、描画、美、豊満、管楽器や弦楽器の演奏。
婚姻の歓び、香草や良い香りのものども、夢見させるもの、将棋やサイコロの遊戯、婦女達との同◯願望、また信頼を確かなものとする性愛の享楽、豊満さは欲望を生み、愛は自由や寛大な心を、また歓びをあらわにし、◯い、復讐や正当性を憎む。
友情への嗜好は、世間の判断よりも、自らの嗜好と欲望を保とうとするものゆえ、偽りの誓へと一歩踏み出すこととなる。…(略)
14,
水星は可変的である自然本性から他へと変じ、諸他の惑星の自然本性を採り込む、つまり善と共に善を、悪と共に悪を。
これの意味するところは覚知と理拠的知性、善い弁舌、堅牢で深遠な物事の知解、善い知性の働き、善い記憶力、善い把握力、諸知識の敏活な獲得、知識と愛知の研鑽、偶発的な者事の知解、算術、幾何学、占星術、土占い、降霊術、鳥占い、書写、文法、気を遣った語法、叡智の請願に関わる俊敏な把握、賞賛を求める知識の探求、詩書、押韻への愛着、算術書、叡智の秘鑰の記述に対する知識欲、愛知の解釈、人への慈愛,恭順、愛の歓び、富の浪費と商売の破綻、狡猾な詐欺紛いの道理づけをしてみせる者達との商品売買。
※彼等はその邪な思いを隠して嘘をつき、偽装を凝らして用心深く警戒する者達をも容易に◯め、様々な職掌に就く者達を大胆にも精妙な仕掛けをもってあらゆる混乱に陥れ、その所業を楽しみ、富を得るため友や人々を支援して非合法へと逸脱させる。
◆補足文
(※以下~。この「ピカトリクス」は魔術を行う者達のために存在しているので、つまり自分達こそ「邪な思いを隠して嘘をつき」まくっている悪魔崇拝者であるというのに…、なんと白々しい文章でしょうか。)
15,
月は冷と湿であり、その意味するところは業への着手、大いなる事柄の知解、善い覚知と動機、最良の助言、堂々とした弁舌、生活の要請にかかわる大胆さと幸運任せ、人に交わる身嗜み、優美で軽やかで愛らしい身振り。
こうした人々は身のこなしの洗練を求め、健全明瞭な意志をあらわし、貪欲に食べ、妻との性交は喜びは僅か、悪を思いとどまるのは人々からよく言われたいという思いからの気どり、愉快なもの美しいものを愛し、占星術や魔術その他の秘密を詮索する高貴な知識を好み、子や孫を愛して家庭を大切にし、人々から愛され賞賛され、義しい行為に邁進する。これはまた、まさにこれの性質の一つである忘却や必然を意味してもいる。
16,
土星に唱える方法。土星に唱えたいと思う時には、それが良い位置に来るまで待機する。優良なのはこれが天秤宮にある時で、これ土星の昴揚にあたる。続いて宝瓶宮にある時、ここはこれが歓ぶ宿である。…(略)
一方、この惑星がその行路を逆行しているか、失墜の角度にある場合は、怒りと悪意に満ちた人のようなもので、請願もたちまち覆される。土星が上掲げのような良い配置にあり、これに祈りを唱えようとする時には、あなたは黒い布をまとい、つまりあなたが身に着けるもの全てを黒くするだけでなく、学者のような黒頭巾を被り、あなたの履物も黒くする。
そしてこの業を実修するため、人里離れて慎ましく準備された場所に赴く。ユダヤ人達のように歩みを運びつつ。土星は彼等の合の主惑星であるから。
またあなたの手には鉄の指輪をはめ、鉄の釣り香炉を携えて。そこに◯した炭火を容れ、ここに薫香用の錠剤を投じる。その成分は次の通り。
阿片、アクタラグ(草の一種)、サフラン、月桂樹の種子、胡桃、ニガヨモギ、羊毛片、コロシントウリ、黒猫の毛を等量取り、汚れを取り去ってから、黒山羊の尿と共に全てをよく混ぜ、これを糸状にする。
実修にはこれを一本、高炉の炭火の中に投じ、立ち上るうちに以下の祈りを唱える。
「高き主よ、大いなる名をもちたまい、すべての惑星からなる上天に居たまうものよ、至高なる神によりその高みに据えられたものよ。汝こそ、主なる土星。
冷にして乾、闇深い善の作動者、汝の真なる友情が、汝の真なる約束が、汝の友と敵とに永劫にわたり堅持されますように。
汝の知識は永劫にして深遠。汝の言葉と約束の内には真実があり、汝の様々な業は唯一格別で、その歓びと快活さにおいて諸他の哀れで痛々しいものどもとはかけ離れている。
汝は老いた高齢の賢者。良き知性と劫掠者。
汝は善の作動者であるばかりか、悪の作動者でもある。惨禍と悲哀は汝の災厄がもたらす災いであり、善は汝の幸運から汲まれる。
神は汝のうちに潜在力と力能と霊を据えたまい、これらが善をも悪をも働く。
汝、父にして主なるものよ、汝の様々な高い名と汝の様々な驚くべき業に、願い上げる。吾にあれこれをなしたまえ、と。」
このようにして、あなたの願いを唱え、あなたの身を地に投じ、あなたの顔を常に土星に向け続ける。敬虔に、一心に、従順に。
この請願は清浄にして確固としたあなたの意志に出たものでなければならない。そうすればあなたの請願が成就されるのを目の当たりにできるだろう。
17,
また他の賢者達は別の祈祷と薫香を持って土星に祈っている。…(略)
この薫香を香炉に投じ、あなたの顔を土星に向ける。その煙が立ち昇るうち、次のように唱える。
「神の名と、神が冷の作用を集めて土星の力能と潜在力を名指ししたまう天使へ、
ユリルの名において。汝は第7天にある。
汝をすべての名をもって召喚する。
アラビア語でゾハル、ラテン語でサトゥルヌス、フェニキアの語彙でケイフェン、ローマ語でコロネス、ギリシャ語でハコロノス、インド語でサカス、汝すべての名をもって汝を呼ぶ。
そして汝に潜在力と霊を授けたまうた高き神の名において汝に誓う。
吾と吾が祈り受納し、汝が主なる神に服するその服従をもって吾にあれこれをなして報いたまえ、と。」
ここであなたの請願を唱える。香炉へ薫香を続けながら既に述べた言葉を一度唱え、土星に向かってその自然本性である土にあなたの身を投じる。
既に述べた言葉を繰り返し唱え、それ、土星に生贄を捧げる。
黒山羊の首を刎ね、その血を集めて貯める。続いてその肝臓を取り出し、火で完全に焼き、そこに血を注ぐ。このようになら祈りは叶うだろう。
第Ⅲ書は長いので、次回に続けます。
後半はもっとエグイ魔術の内容となっていきます。